
認知症の4つの症状と看護ケアのポイントとは?
かつて高齢患者の多くは「老人病院」と呼ばれる医療機関にかかっていましたが、いまは急性期病院にも高齢者があふれています。急性期看護というだけで看護師には高いスキルが求められるのですが、そこに高齢者看護という別のスキルが必要になるのですから、業務の困難さが増します。それだけではありません。高齢者が多いということは認知症患者も多いということです。認知症ケアというさらに別のスキルを持っていなければならないのです。最早すべての看護師が認知高齢者の対応を学ばなければならない時代なのです。
認知症高齢者は20年で2.2倍になる
認知症高齢者の人数は、2002年には149万人でしたが、2015年には250万人に、そして2025年には323万人になると推計されています。
2002年から2025年までに2.2倍になるのです。
当然のことながら、認知症高齢者が認知症以外の病気を治すために入院する機会も増えています。
精神科ではない一般病院の病棟看護師は、「認知症患者は問題行動が多い」と大雑把に認識してしまいがちですが、それでは認知症の高齢患者をうまくコントロールできないでしょう。
循環器系の急性期病院の病棟看護師も消化器系の看護師も、認知症に関する基礎知識を身に付けておいたほうがよいでしょう。
4種類の認知症
認知症の「型」には大きく4種類があります。
<アルツハイマー型認知症>
最も患者数が多いアルツハイマー型認知症は、記憶障害から始まって、時間・人・場所を認識できなくなる見当識障害や、顔を洗う・着替えるなどができなくなる実行機能障害を引き起こします。
徘徊もアルツハイマー型認知症の特徴的な症状です。
また発病の初期段階では、自分の物やお金を盗まれたと思い込む「物盗られ妄想」が頻発します。
<レビー小体型認知症>
そこに居ない人が見えるといった幻視の症状が現れたり、ぼんやりしていたかと思ったら急に元気になったりするのは、レビー小体型認知症の特徴です。
その他、夜寝ているときに大声を出したり、無意識にベッドを出て歩き回ったりするレム睡眠行動障害を引き起こすこともあります。
レビー小体型認知症の患者が「意外に多い」と分かってきたのは最近のことです。以前はアルツハイマー型認知症と誤診されるレビー小体型認知症患者が少なくありませんでした。
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症では薬は異なるため、レビー小体の患者にアルツハイマー用の薬を飲ませて症状を悪化させていたことも珍しくありませんでした。
<前頭側頭型認知症>
前頭側頭型認知症の人は、人格が変わったように他人を茶化したり、他人のものを盗んだり、いたるところに唾を吐いたりする症状が現れます。
<脳血管性認知症>
人格が変わってしまう症状は、脳血管性認知症にも現れます。病室で妻を怒鳴っている男性患者が、診察室の中に入って医師の前に座ると礼儀正しくなったりすることもあります。
脳血管性認知症は、脳梗塞が引き金となる場合が多いとされています。脳梗塞は脳の一部を壊死させますが、脳のその他の部分は正常に機能します。ですので脳血管性認知症の症状でも、できる行動とできない行動が混在します。
認知症患者の看護ケアの3つのポイント
認知症患者に注意しても状況が悪化するだけ
一般病院の病棟看護師が認知症の種類を覚える目的は、患者が問題行動を起こしたときに、「これは病気が引き起こしている症状であって、この人が悪いわけではない」ときちんと理解するためです。
このような理解ができている看護師は、認知症患者にイラつくことはありません。
認知症患者にイラつくことも、認知症患者に厳しい口調で注意することも、状況を悪化させるだけです。
認知症の症状が強く出てくると人手が必要になるので、病棟内の看護業務が増えてしまいます。
認知症患者を厳しく注意をしても状況が好転することがないことは、医学的に証明済みです。
中核症状と行動・心理症状を区別する
認知症の症状には2段階あります。
1つ目は、脳の細胞が壊れることで生じる「中核症状」です。
2つ目は、中核症状に性格・素質と環境・心理状態が加わって生じる「行動・心理症状(BPSD)」です。
中核症状には記憶障害、見当識障害、実行力生涯、理解・判断力の障害などがあります。
行動・心理症状には、不安、うつ状態、幻視、妄想、徘徊、興奮、暴力、不潔行為などがあります。
優しく接することは鉄則
認知症の2種類の症状のうち、看護業務を阻害するのは圧倒的に行動・心理症状です。そして、行動・心理状態を悪化させる要因に環境・心理状態がありました。
ということは、看護師が認知症患者に強い口調で注意などしてしまうと、環境も心理状態も悪化してしまうので、その患者の行動・心理症状はより激しくなるのです。
ですので、認知症患者がどんなに大きな問題行動を起こしても、看護師は優しく接したほうがよいのです。
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認知症患者とのコミュニケーションのコツ
認知症患者ケアが苦手になるメカニズム
認知症患者には優しく対応しなければならないことは分かっていても、急性期病院の病棟看護師はただでさえ忙しく、ゆっくり対応してあげることはできません。
また、認知症患者が点滴の管を自己抜去したり、監視の目をかいくぐって歩き回って転倒して骨折をしたりすれば、担当の看護師は「インシデント・アクシデント報告」を書かなければなりません。
インシデント・アクシデント報告が多い看護師は「良くない看護師」とみなされてしまうので、看護師にはどうしても「あの患者のせいだ」という気持ちがわいてしまいます。
これが、多くの看護師が認知症患者のケアを苦手にするメカニズムです。
苦手意識を持たないで、関心を持とう
その他にも、病棟看護師たちを悩ませる認知症患者の行動には次のようなものがあります。
・暴力や暴言
・治療の拒否
・他の入院患者への迷惑行為、攻撃
・意思疎通の困難さ
これだけそろってしまうと、認知症患者のケアの経験が少ない若い看護師は「私には無理」と感じてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。
必ず先輩看護師のように認知症患者に対応できるようになります。
ある研究で、認知症高齢者ケアへの関心が高い看護師群と、関心が低い看護師群を比較したところ、関心が高い看護師たちのほうが「認知症高齢者の価値観をとらえづらい」と感じにくいことが分かったのです。
認知症の知識を持ち、認知症高齢者に積極的に関わることで、認知症ケアが得意になっていくことを証明しているのです。
身体拘束について
徘徊を止められず転倒させてしまい、大腿骨頸部骨折をして寝たきりになり、廃用症候群を引き起こして死亡する――これが病院内における認知症患者ケアの失敗の最悪の道です。
そのため病院の病棟では、患者の身体拘束が認められています。
深夜帯は看護師の人数が減るため、認知症患者の徘徊を制御できなくなる事態に陥ることが考えられます。
その場合、認知症患者を拘束することになります。
認知症患者の拘束は、
①命の危険があるときに、
②拘束以外の方法がない場合に限り、
③最低限の拘束
が認められています。
この3条件がそろわない段階で看護師が患者を身体拘束してケガをさせた場合、家族から損害賠償裁判を起こされたら、病院と看護師側は負けてしまうでしょう。
また、身体拘束をしたときは、その記録を残しておかなければなりません。当然家族にも知らせます。
さらに、認知症の診断がくだっているなど、問題行動を起こしかねないことが事前に分かっている場合は、家族から身体拘束の同意書を取っておく必要もあります。
身体拘束は最終手段であり、看護師は極力その方法を回避しなければならないことは言うまでもありません。
さいごに - 介護職が答えを持っていることもある
認知症患者のケアで意外に参考になるのが、介護職の行動です。優秀な介護職は常に高齢者の心の平穏のことを考えているので、荒波を立てない方法を会得しています。
また介護職は「なぜあの看護師はすぐに認知症患者を怒らせてしまうのか」ということも知っています。
看護師のほうから「教えてください」と頼むと、介護職は喜んで認知症患者をあやすコツを伝授してくれるはずです。
参考:
「一般科看護師が対応困難と感じる精神症状と精神障害者の入院に対する拒否感との関連」(山口大学大学院医学系研究科保健学専攻)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/38/4/38_317/_pdf
「急性期病院に必要な認知症看護について~事例を通しながら認知症看護について学びを深める~」(勤医協中央病院看護部地域公開講座)
http://www.kin-ikyo-chuo.jp/common/pdf/for_medical/section/nurse/nurse_wagon/nurse_wagon_037.pdf
「認知症高齢者をケアする一般病院看護師の困難と関連要因」(桜美林大学老年学研究科)
https://www.obirin.ac.jp/postgraduate/graduate_course/gerontology/thesis/master_thesis/7fl296000005h1bz-att/211J6006.pdf